人を大切にする経営で元気をつくる(1)―吉田工業株式会社-<2022・08・19>

印刷

最終更新日: 2022年8月19日

人本経営で日本の製造業を元気にしたい

  吉田工業(株)(佐久市、代表:吉田寧裕氏)は、アルミ鋳造と精密切削をコア技術とし、鋳造・切削後の表面処理までを手掛ける「一貫生産」を強みとしている。製品の販売先は自動車分野を中心に建設機械、産業用ロボットと幅広く、2021年度の売り上げは過去最高を記録している。

  吉田寧裕社長は、「この業績は社員が頑張ってくれたお陰に他ならず、それなくして、お客様の満足を得て、受注を増やしていくことはできません。だから、我が社にとって社員が一番大切なんです」と過去最高の売り上げとなった理由を説明してくれた。

  同社のホームページの代表挨拶でも、「人を大切にする人本経営を目指し、社員一同高い志と夢を持ち、日本製造業を元気にしていきたい」とも述べている。

  この言葉を象徴的に表しているのが、長野県が認証する「職場いきいきアドバンスカンパニー認証制度」で上位認証にあたる「アドバンスプラス」の認証を同社が受けていることだ。

  この制度は、社員が働きやすい職場環境づくりに積極的に取り組んでいる企業を認証するもので、「ワークライフバランスコース」、ダイバーシティコース」、「ネクストジェネレーションコース」の3コースからなる。「アドバンスプラス」は、この3コース全ての認証が必要なため、認証企業数は25社(22年6月1日時点)と限定的だ。その理由は「ダイバーシティコース」の認定が29社(同)にとどまっているためで、企業にとって、女性、高齢者、障がい者、外国人など多様な人材を生かす取り組みの難しさがうかがえる。

障がい者に寄り添える会社でありたい

  多くの企業で二の足を踏む障がい者雇用に、同社は特に力を注いできた。それは、障がい者の悩みの中で一番切実なものは就労に関する事であることから、障がい者に働く場を提供することは地域企業の社会的責任だという強い思いからだ。また、人は働くことで幸せになれるため、そのお手伝いをしたいとの思いもあった。

  同社では、現在4名の障がい者が働いている。

  特に重度の障がいを持つAさんに対しては、製造現場で働くことが希望だったため、長野障害者職業センターのジョブコーチに相談し、Aさんが作業できるように製造設備を変更するという思い切った対応を採った。

  実際に仕事ができるようになるまでは、社内メンバーが寄り添い作業のやり方を教え続けた。社内メンバーが障がいのある人を支援していく喜びを知ったことは、社内の大きな財産になっている。

  障がい者を職場で受け入れるためには、トップの方針もさることながら、このように職場のメンバーの理解や協力が欠かせない。それを欠いたまま受け入れると、障がい者の幸せに寄与するどころか逆にその社員の孤立にもつながりかねない。障がい者雇用がうまくいっている背景は、社員のきめ細やかな対応や、同社に培われた社風の良さがあると言えるだろう。

外国人雇用が作り上げたダイバーシティ社風

  この社風を作ってきたのが、長年にわたる外国人雇用の実績だ。

  同社は、1990年代から中国人、ボリビア人を雇用してきた。「彼らは家族と同じ」だという先代社長の考えから、住まいを用意するなど安心して働ける環境を整備してきた。こうした処遇に感動し、自らの親戚にも同社を勧める外国人の社員は多く、外国人社員は増えていった。

  現在では彼らの子供が入社するなど、温かい関係が続いている。いい会社だからこそ、子供にも勧め、子供も働いてみようと思うのである。

  会社の思いに応えるように彼らは地道に努力を重ね、27年前に採用した中国人の社員は中国現法の総経理を務めている。

  現在外国人社員は30人と、同社社員の1割強を占める。外国人社員との日常的な関わりが、同社のダイバーシティ経営の土台にある。

社員の声を元にした経営改革

  このように社員第一の経営を続けてきた同社だが、社員の満足度が下がってしまった時期もあった。どの経営者に尋ねても、社員を大切にしていないと答える人はいない。重要なことは社員がそのように感じているかどうかだ。そのため、社員の満足度は都度確認をしておかなくてはならない。

  具体的には定期的な「社員意識調査」の実施などがある。その結果は全社員に開示し、可能な限り早い段階で改善を行うことが重要だ。

  同社も調査を定期的に行ってきたが、2017年の調査結果が想定以上に悪かったことが改善に向けた大きな契機となった。

  これを受けて、「職場環境」、「安全」、「人間関係」、「給与」など各方面からの改善を行った。併せて吉田社長自身も能力開発研修を受け、自ら変わる姿勢を示し、会社のあるべき姿を学び直していった。そこでの一番の学びが、「土台とすべきは、社員の幸せを一番に考えた経営」というものだった。その思いを胸に、吉田社長が全社員と個人面談をし、全員の思いに耳を傾けた。そして、翌年には、個人面談で吉田社長が「どんな会社にしたいのか」という夢や思いを語った。

  これら社員の思いと、社長の思いを織りなし、企業理念としてまとめたものが、同社の「社員パスポート」だ。社員パスポートは同社社員の行動指針ともなる。ここにはまず、同社の「5つのお客様」が明示されている。1番目が社員であり、社員の成長、健康と幸せを追求します。2番目以降は顧客、社会、取引先、株主と続いている。同社は企業理念で、社員が最も大切な存在であることを明記したのである。

  最近社員からは、「新しいことにチャレンジし続け、若い人が働きやすい環境が整っている」、「アットホームで明るく親しみやすい」といった会社に対する感想が聞かれることも多くなってきている。

  「それでも社員満足度を一足飛びに向上させることは、そう簡単なことではないと思っています。これからも社員の声に耳を傾け、試行錯誤を繰り返しながら、社員が幸せになれる会社をつくって行きたいと思います」と吉田社長は語ってくれた。

  「土台とすべきは、社員の幸せを一番に考えた経営」を標榜する吉田工業(株)の「元気印」が、県内に広がっていくことを期待したい。


(資料)「シリーズ長野県の元気印を追う」「第1弾 社員を大切にする経営で元気をつくる」「経済月報」(2022年8月号)

 

 

 

 

関連リンク

 

 

  
 

 

 


 

 


 

このページに関するお問い合わせ

産業調査

電話番号:026-224-0501

FAX番号:026-224-6233