わが町・わが村を語る~県内全58町村長の取材を終えて<2022・06・13>
弊所機関誌「経済月報」でのシリーズ「わが町わが村を語る」にて、県内全58町村への取材を終えた。
長野県内の全町村を訪ね、各町村長に「わが町わが村」の課題や持続可能な地域づくりに向けた施策など、町村政への熱い思いや多くの取り組みを語っていただいた。
58町村長に語っていただいた内容から見えてきた、地域が活性化していくための幾つかのヒントをまとめた。
平成の大合併を経て
連載がスタートした2010(平成22)年は、1999(平成11)年から2010年度末まで進められた「平成の大合併」が終了した年だった。
長野県では1998年度末の103町村が「平成の大合併」により58町村となった。6割程度に減った計算だが、58町村という数は北海道の144町村に次いで多く、村の数は35村と全国で最も多いままとなった。
2018年10月1日現在、他県の町村数と比べてみると、長野県の次は福島県の46町村、その次が福岡県、熊本県の31町村となっている。
都道府県の町村数は、人口や面積、地理的条件などが異なるため一概に比較はできないが、全国平均は19.7町村となっており、その数からみると長野県の町村数は相当に多い。
いずれにしても長野県では多くの町や村が「自立の道」を選択したということになる。では、それぞれの町村長の覚悟や思いはどうなのか。本連載はそうした疑問からスタートした。
最大の課題は人口減少、消滅の可能性も
58の町村長の語る内容では、大きく3つの点が共通していた。
1つ目は人口減少を最大の課題として捉えており、特に若者の流出に危機感を抱いていることだ。
2つ目は、その対策として、地域の資源を最大限に活用し、産業を活性化しようと試みていることだ。これは財源の確保と同時に、若者の働く受け皿をつくれるかが重要だ。
そして3つ目は、2014 年5月に日本創成会議が公表した「成長を続ける 21 世紀のために『ストップ少子化・地方元気戦略』」(通称「増田レポート」)(注)で消滅可能性自治体として名指しされたことへの怒り、憤り、つまり「消滅だって?とんでもない、そうはさせまい」との思いだ。
消滅可能性自治体には、県内58町村中32町村が該当していた。
地域資源を生かし住民を幸せに
人口減少をどうするのか。これは県内町村に限った話ではなく、日本全体に及ぶ大問題だ。いわゆる少子高齢化の問題であるが、県内町村は人口の減少率が大きく、高齢化は何歩も先を行っている。放っておくとわが町わが村が消滅しかねない。
故に各町村長らは、地域資源を最大限に生かし、人を呼び込んだり、産業を活性化するための手立てを講じている。また、自らは産業の素地が乏しいため、住むための魅力を磨き上げ、近隣自治体のベットタウンとして人口増加に力を入れる町村もある。
そして、忘れてはならないことは、住民満足度を高めることだ。住民が満足し、幸せな生活を送れていないような地域には、外部から人が来るはずはない。訪れる人が多い町村の住民満足度はおしなべて高い。
人を呼び込み、ファンづくり
まず、人を増やすためには、行き交う人を多くすることが必要だ。
上高井郡小布施町のファンは多いが、花で彩られた家庭の庭を開放する「オープンガーデン」など、交流人口を増やすための街づくりが行われている。
上水内郡飯綱町は、全国のリンゴ生産の1%のシェアを持つという強みを生かし、リンゴの木のオーナー制度やリンゴ祭りを積極的に行っている。
下伊那郡阿智村は、どこにも負けない星空観光の仕掛けを作り上げ、多くの人を呼び込んでいる。
下伊那郡根羽村など木曽川に連なる町村は、水という地域資源で川下で水の恩恵にあずかる愛知県、静岡県などからの観光客を多く迎えている。
このように、多くの町村が地域資源を活用することで人を呼び込み、ファンづくりに取り組んでいる。
ファンが移住・定住者に
何度も行き交っているうちにその町村のファンとなり、移住・定住へとつながる事例は多い。
下伊那郡売木村は、村の地域資源を生かした四季折々のイベントを数多く企画・実行し、村のファンを増やしてきた。その結果、村民の約4割が移住者であり、人口約500人の村を維持している。
下伊那郡大鹿村は、南アルプスに囲まれた大自然に魅せられ移住してきた多くの人達が、自然農法に取り組んでいる。人口約1,000人の内、移住者は200人に上る。
南佐久郡南相木村は、俗化されていない素朴な田舎という環境を売りに、移住者への就農支援を進めている。同村も人口約1,000人のうち移住者は150人を超える。
産業活性化は「あるものを生かして」
このように地域の優れた資源は、人を呼び込む。それと同時に産業を活性化するのも地域資源だ。
木曽郡木祖村は、地域資源である伝統産業を守ることが産業活性化の第一歩と考えており、お六櫛や木曾牛の後継者を外部から呼び込み支援している。いずれも若者であり、若者の就労を支援する村の姿勢は他の若者を呼び込むことにつながっている。
下伊那郡天龍村は、建設業が主要産業である。村を流れる川の砂利が建設骨材として優れていることが、建設業の競争力を高めている。その点に着目し、砂利採取業を村の産業に育てられるのではと構想を進めている。
上伊那郡飯島町は、強みである農業を活用したワーケーションのプログラムを開発した。これは農業での癒し効果を大学との連携で明らかにし、プログラム化したものである。都会から来た人にこのプログラムを体験してもらうことで、町全体が観光資源となることが期待できる。
南佐久郡川上村は、寒くて米も作れない厳しい環境を地域資源と考え、寒暖差の激しい気候を生かしたレタス生産を産業にした。
要するに地域を元気にする要は「ないものねだりではなく、地域のあるもの探し」だということがわかる。
住民満足度を上げてこそ人が来る町村に
そして、住民の満足や幸せこそ、人が減らないための必要な条件である。
上水内郡小川村は、「ここはいいところだからいらっしゃい」と村民が自然と言える村とするため、村民本位の行政サービスを大原則としている。17年の移住者は100人を超える。
下伊那郡高森町は、役場職員に対する「忘己利他」の教育と医療福祉の充実により「町に住み続けたい」と考える住民が9割にのぼる。
上伊那郡南箕輪村は、「子育てをするなら南箕輪村」と言われるほど、子育て環境を充実させている。住み続けたいとする住民比率は9割に近く、人口増を続けている。中堅企業が立地しているという恵まれた環境もさることながら、住民を大切にし、住民もこの村が好きだという点こそが重要だ。
ごく一部の町村の取り組み事例を紹介したが、自立のための知恵と行動で頑張る県内58町村の存続・発展を心から願いたい。
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(注) 地域間の人口移動が将来も収束しないという仮定の下、2040 年に 20 歳から 39 歳の女性の数が5割以上減少する市町村は 896(全体の 49.8%)に上り、将来消滅する可能性があるとされ、わが国の地方創生の動きを加速させる契機となった
(資料)長野経済研究所「経済月報2022年6月号」『わが町わが村を語る・最終回』
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