農業で経済も身心も元気な村に 「朝日村の取り組み」<2022・03・14>
鉢盛山から広がる森林や鎖川の清流など豊かな自然に恵まれ、隣接する松本市、塩尻市のベッドタウンとして発展を遂げてきた東筑摩郡朝日村。
高原野菜の主要産地としても名高く、大規模農業を営む住民も多い。
「農業振興は一番の課題」と語る小林弘幸村長に農業の活性化策についてうかがった。
新規就農者の育成を目指して
朝日村の販売農家数は現在186戸だが、高齢化と後継者不足で10年後には耕作放棄地も相当に増えてくる見通しだ。
このような先行きに危機感を抱き、村では若い新規就農者の育成と定着を目指した活動に力を入れている。
農業を始めるためには、先ず、就農者が農業について学ぶ仕組みが必要だ。
国や県などにもそのための支援策はあるが、それら一連のプログラムに加え、村では役場の職員主導で策定した「農業ビジョン」に、農業を学べる教育施設の設立を盛り込んだ。
最近の自治体の産業ビジョンは外部に委託することが多いが、実情を熟知している役場の職員が策定することで具体的な効果は出やすい。
新規就農者の暮らしをサポートするための空き家の活用や、新たな村営住宅の建設も計画中だ。
こうした機運というものは広がり易い。朝日村で農業を学びたいと言って引っ越してきた英国人の夫婦もいるほどだ。
肝心の農地についても、機械が入れるよう村内6ヵ所で整備を進めている。
新規就農の壁「初期投資」への支援
朝日村の特産品は、レタス、キャベツ、白菜、といった葉物野菜だ。
土壌が良く、整備されたかん水設備で育った品質の良い野菜であることが強みとなっている。
その強みを保ち続けるため、野菜の苗の定植機や自動収穫機など最新設備に関する情報の収集・提供も村では欠かさない。
葉物野菜を主軸とした農業は、装置産業といってもいいほどに設備にお金がかかる。そのため、新たに農業を始める人にとっては、この初期投資が大きな関門となっている。
そこで、村では設備投資に対して手厚い支援を重ねている。
「農業技術の習得から住宅、農地の確保、設備まで、『初期投資』に対し総合的な支援を行うことで後継者を育て、村の農業の存続を図っていきたいと思います」小林村長は思いを語ってくれた。
農家の収入を少しでも多く
一方、朝日村では「1ヵ月3万円農業」という農業の小商いともいうべき形態も推進している。
農家が少しでも収益を上げられるようにとの思いから作り上げたものだ。
手が空いた時に家の庭や裏の畑などで珍しい野菜を作り、消費ルートに乗せる仕組みを設けている。
村内の小売店やマルシェ、集配トラックを巡回運行させ出荷する「やさいバス」 (注1) という流通の仕組みなどを活用して、付加価値の高い新品種のかぼちゃやトウモロコシを売っている。
他に、農家にとっては冬季にどのように収入を確保していくのか、ということも課題だ。
「朝日村は87%が森林で、そこで出た間伐材を燃料にバイオマス発電をして、その排熱でハウス栽培をすれば冬も安定して収入が得られるのではないか」
「その第一歩として管理できていない森林の整備を進める森林経営管理制度や、松くい虫の感染予防対策などを通じて、伐採と植林を積極的に行い、林業も活性化していきたい」。
バイオマスで冬季農業を可能にする姿は、森林の裾野で農業を営む朝日村ならではのビジネスモデルのように思う。
日本一野菜を食べる村づくり
朝日村では役場の玄関に「日本一野菜を食べる村運動」という垂れ幕がかかっている。
当村は以前から他の自治体に先駆けて、健康村づくり運動を続けてきた。しかし、実際に村民に対し調査を行ってみたところ、野菜を作っている人が多い割に食べている量が少ないことが分かった。
そこで、野菜栽培が盛んなんだから、健康の維持・増進のために日本一野菜を食べる村にしようじゃないかという企画が持ち上がった。
今では小林村長が先頭に立って「野菜を食べよう」と呼び掛け、健康づくりをアピールしている。
近年、サーキュラーエコノミーという言葉をよく聞く。資源を循環させ持続可能な経済を目指そうとするものだ。
朝日村の農業は、人材の育成から農地整備、農作物の生産、そして域内消費、健康維持・増進と、農業を巡るサーキュラーエコノミーが形成されているのではと思う。
(注1)地元の生産者が「バス停」に農産物を出荷し、地域の運送会社が配送、買い手が「バス停」まで取りに行く地域共同配送システム。
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