伝統が生き残るための不易流行の経営~株式会社仙醸~<2021・06・28>
明日を造れ!ものづくりナガノ
ものづくりが強い長野県で、ものづくり企業を応援する目的から放送している番組「明日を造れ!ものづくりナガノ」(SBC信越放送)もこれまで130社を超える企業に出演いただいた。
老舗と言われる企業も多いが、長い歴史を刻んでいる経営には「伝統を大切にしながらも、それにこだわらない革新にも果敢に挑戦している」という共通点が見られる。
6月27日放送の同番組に出演いただいた株式会社仙醸の黒河内貴社長の取り組みからも、それを強く感じたので紹介したい。
コロナに対峙する老舗の酒蔵
株式会社仙醸は伊那市高遠町にある酒蔵だ。
江戸時代にあたる1866(慶応2)年に創業され、150年の歴史を持つ。
老舗ゆえに日常の「お付き合い的」ルーチンは多い。
今回の新型コロナウイルスの影響で中止されたイベントや展示会もその一つだ。売り上げへの悪影響がない訳ではなかったが、それよりも中止されたことで空いた時間を商品開発に振り向けられた成果が大きかった。
開発した代表的な商品が「消毒用アルコール」だ。この手の商品は全国の酒蔵でも多く手掛けられたが、商品開発に早く舵を切ったことから、全国で3番目という早さで市場に投入できた。
また、同社では日本酒を蒸溜した米焼酎も以前から製造しており、この蒸溜技術を使い世界的に需要が増えているジンの分野に向け「長野県らしいジンづくり」にも挑戦している。
「ホンモノ」の追求
日本酒の消費が減少傾向にある中、求める酒造りは「ホンモノ」だ。
成熟した消費者は「ホンモノ」以外には見向きもしない。
美味しい日本酒造りに欠かせないのは、質の良い「酒米」と美味しい「水」だ。
同社の酒は全て契約農家との契約栽培で育てた酒米を使い、その全てを自社で精米するという「こだわり」で作り上げている。水もカルシウム豊富なアルプスの雪解け水を、地下から汲み上げて使っている。
海外のコンクールで高い評価を得るためにも「ホンモノ」であることは欠かせない。
先般、仙醸では、毎年ロンドンで開かれている世界最大規模のワイン品評会「IWC(インターナショナルワインチャレンジ)2021」の日本酒部門純米大吟醸の部で「黒松仙醸純米大吟醸山恵錦磨き40」という大吟醸酒がシルバーメダルを受賞した。
さらに2005年から製造販売を手掛けている甘酒も、麹菌が作り出す多くの酵素を健康に役立たせるために加熱処理をしない「生甘酒」として販売している。
加熱処理をして酵素の働きが失われている甘酒が多い中、「ホンモノ」を提供していると言えるだろう。
ホンモノは変わらないことではない
このように書いていくと仙醸では、150年間変わらぬ工法と味で「ホンモノ」を提供してきたと思われがちだが、そうではない。
創業当時は当然に手作りであった酒造りは、今では大規模な機械を導入して自動化を進めている。手作りのノウハウは機械化で失われるものではない。
また、昔は「どっしり」というのが日本酒で好まれた風味だったが、最近では「香り華やか」であったり「軽やか」な風味が好まれる。同社では、そうしたニーズに合わせて、米、酵母などの微妙な調合を変えながら新たな「ホンモノ」をつくり対応してきた。
変わるものはニーズばかりではない。人口が減少する中、働く人も減っており「働き方」も変えていかなくてはならない。
酒は冬場に仕込むのは当たり前であり、そのため冬は忙しい。
しかし、冬場だけ忙しいのでは、働く人にとって負担が大きい。通年で仕事が平準化できないものか。
そこで仙醸は夏の酒造りも進めている。
酒造りには麴菌、酵母菌などの微生物の発酵力を使っている。そのため、雑菌が繁殖しない冬が仕込み時期となってきた。
夏場に酒をつくるためには、この雑菌の繁殖を抑えることが必要だ。
そこで酒の仕込みサイズを従来の10分の1程度に小さくすることで、冷蔵設備を使った酒造りを可能にした。
不易流行の経営
仙醸は創業以来、日本酒の製造に特化してきたが、世の中のニーズが変化する中、伝統の酒造りを守りながらも事業を変幻自在なものとするため「米発酵文化を未来へ」と新たな理念を定めた。
自社がこの世の中に提供するものは「米発酵文化」であり、「伝統の日本酒」ではないというメッセージだ。
「伝統」という呪縛の中で、どれだけの伝統が失われたことだろうか。
そうではなく発想を一新して、伝統で守るべきモノは守りながらも、柔軟に変えるべきを見極め果敢に変えていくことが必要だ。
この「不易流行の経営」こそが、伝統が生き残るための秘訣だろう。
(参考)SBC信越放送「明日を造れ!ものづくりナガノ」(2021年6月27日放送)
関連リンク
産業調査
電話番号:026-224-0501
FAX番号:026-224-6233