民法改正で譲渡禁止特約付き債権の譲渡も原則有効に<2019.2.25>

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最終更新日: 2019年2月25日

 現行民法では、譲渡禁止特約のある債権の譲渡は原則として無効とされていますが、2020年4月1日に施行される改正民法では、この点が改まります。以下でその主な内容を説明します。

 債権は原則として譲渡可能とされていますが、現行民法では、譲渡禁止特約がある債権の譲渡は、その特約について重大な過失なく知らなかった者、すなわち、善意無重過失の者を除いて、無効となるとされています。このことは、債権譲渡や債権譲渡担保により資金調達をしたい企業にとって大きな支障となっていました。

 改正民法では、譲渡禁止特約(改正民法では「譲渡制限特約」といいますので、以下このように表現します)があっても、債権譲渡の効力は妨げられないとしました。これは、譲渡制限特約がついた債権であっても、譲受人の事情を問わず(すなわち、譲渡制限特約について譲受人は知っていたり、重大な過失により知らなかった場合、つまり、悪意有重過失の場合でも)、債権譲渡は有効となることになり、第三者対抗要件を備えれば、債権譲渡を受けたことを誰に対しても主張することができることになります。なお、預貯金債権についてはこの適用がありません。

譲渡制限特約で債務者は弁済先を固定できる

 そもそも、債権の譲渡制限特約にはどのような意義があるのでしょうか。仮に、債権者が自由に債権を譲渡できるとすると、債務者は誰に弁済すれば良いのか分からなくなってしまいます。そこで、譲渡制限特約を付ければ、債務者にとっては弁済先を固定でき、過誤払いのリスクを回避することができます。また、債権が反社会的勢力などへ譲渡されるのを防ぐこともできます。こうした点で、譲渡制限特約には債務者の弁済先を固定できる意義があると言えます。

 そこで、こうした譲渡制限特約の意義を踏まえ、改正民法では、悪意有重過失の譲受人に対しては、債務の履行を拒絶できるほか、譲渡人に対する弁済等をもって譲受人に対抗することができるとされています(債務者が「譲渡制限特約があるのをいいことに、譲受人にも譲渡人にも支払わない」ことが生じないような規定も設けられています)。

 ただ、現行民法と異なり、このような場合でも、債権譲渡自体が無効になるものではありません。なお、譲受人の悪意又は重過失の立証責任は債務者が負っていることが明示されましたが、この点は現行民法と同様です。

債権未回収に備えて対抗要件を具備する

 以上のように、改正民法では、譲渡制限特約があっても債権譲渡は有効となります。そこで、債権を譲り受けた場合に重要になるのが、債務者及び第三者に対して自分が債権者であることを主張するための対抗要件を備えることです。現行民法では、譲渡制限特約について悪意有重過失の者への債権譲渡は無効とされていたので、このような譲受人がいたとしても、善意無重過失の譲受人は対抗要件を具備しなくても自分の権利を主張できました。

 しかし、改正民法では、譲渡制限特約について悪意有重過失の譲受人であっても、先に対抗要件を備えると譲渡債権が確定的に帰属することになるため、対抗要件において劣後する譲受人は債権が回収できなくなります。見方を変えると、譲渡制限特約について悪意有重過失の譲受人であっても、対抗要件さえ備えれば、その債権譲渡の効力を主張し得ることになります。

 債権譲渡の対抗要件についての規律は、現行民法と改正民法とでは差異はありません。すなわち、対抗要件には、(1)債務者に対する対抗要件、(2)債務者以外の第三者に対する対抗要件、の2つがあり、(1)の債務者対抗要件は、債務者に対する「通知」または債務者の「承諾」によって具備し、この「通知」または「承諾」を確定日付のある証書(公正証書や内容証明郵便など)で行うことによって、(2)の第三債務者対抗要件を具備することになります。

 債権譲渡を受けたときに、その対抗要件を具備することは、従前にも増して重要だと言えます。

二重譲渡の優劣はどう判断するのか

 ここで、譲渡人が2人に債権譲渡、いわゆる二重譲渡をした場合、譲渡人から債務者に通知が2通郵送される可能性もあります。

 この場合の優劣の判断は、まず、確定日付の有無により、確定日付のある方が優先します。次に、いずれも確定日付がある場合は、確定日付の前後ではなく、債務者に到達した日時で判断することになり、早く到着した方が優先します。そのため、債権譲渡通知を受けた場合、実務上、日時を記録しておくことが重要になります。さらに、確定日付もあり、通知も同時に受けた場合は、いずれかに支払えば債務は消滅することになります。

 債権譲渡通知が郵送されると戸惑うことも多いかもしれませんが、まず、譲渡人に連絡をして、債権譲渡の事実の有無を確認することが重要です。

 本稿は、経済月報2019年2月号の相談コーナーで紹介した内容に加筆したものです。

 

 

 

 

 

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