信州の「食」で健康・長生き<2017・10・03>
長野県の長寿を支える食。出荷額上位の製品も多い。
長野県の長寿日本一を支えるものの一つとして「食」が挙げられます。長寿の要因を探ることはなかなか難しいようですが、「長野県健康長寿プロジェクト・研究事業 報告書」(長野県健康長寿プロジェクト・研究事業研究チーム)によりますと、女性の野菜摂取量は全国1位であることが明らかにされています。長野県の自然環境は美味しい野菜を生育し易く、レタス、セロリ、パセリなどの出荷量は全国1位となっています。これらをもとに加工食品でも、味噌、こうや豆腐の出荷額は1位、ジュースは2位、漬物は3位と優れています。
毎月出演している信越放送の「明日を造れ!ものづくりナガノ」でも、ここ2ヶ月ほど県内の食品メーカーに登場いただきました。今回は長野県の特徴ある「食」についてご紹介します。
こうや豆腐の旭松食品-健康的な食材としてさらなる進化-
8月は飯田市の「こうや豆腐」メーカー旭松食品の木下博隆社長にお話を聞きました。
同社は、1950年に飯田市で創業。現在では年間2億枚を生産する業界のトップメーカーに成長しています。こうや豆腐の製造は独特なものです。ゆっくり時間をかけて凍らせ、凍結後にマイナス2℃の環境で3週間もの長い間熟成します。これらの工程により、コレステロールの調整や食後の中性脂肪上昇を抑制する「レジスタントタンパク」というものが形成され、こうや豆腐を健康的な食品に仕立てています。
さらに、今年の2月には、こうや豆腐を軟らかくする工程で添加されていた重曹(炭酸水素ナトリウム)を炭酸カリウムに変更する新たな製法の開発に業界で初めて成功し、「農林水産大臣賞」を受賞しました。これは約40年振りの新工法となります。すなわち塩分で問題とされるナトリウムを削減している訳で、年間2億枚を生産する同社にとっては、約40トンの食塩を抑制したことと同じ効果となります。
豊富なレジスタントタンパク質からなるこうや豆腐が、更に健康的な食品として進化を遂げています。
わさびのマル井-新製品開発と地域循環での産業振興への進歩-
9月は安曇野市の加工わさびメーカーマル井の井口彰社長に登場いただきました。
同社は、創業から70年を超える老舗企業で、業務用8割、家庭向け2割という割合で生産をしています。商品開発に力を入れ、現在およそ170品目を揃えています。主力商品は、お馴染みの「あらぎりわさび」、「本わさび昆布」、「青じそわさび」などで、出荷量は年間1,900トンになります。
同社の括目すべきは、地元の農家などが育てたわさびを加工するだけでなく、自社の施設で「わさび苗」を栽培している点です。
この背景には、わさび生産量の減少があります。わさびの生産量は農家の高齢化や地球温暖化などの影響もあって全国的に減少しており、ピーク時のおよそ6割になっています。そうした厳しい環境下、育苗には3か月もかかるほか高い生産技術も必要となるため、わさび農家の離農が進んできてしまいました。これらの課題に対し、同社は、農家の負担を軽減して生産量を確保し、加工に回るわさびを増やし、かつ品質を上げるため、自社での「わさび苗」の栽培を始めました。
最終的には、種から加工わさびまで、わさび生産を地域で循環させる仕組みを構築したいとの目標を掲げています。
食品を「信州ブランド」として高付加価値型産業へ
このように非常に特徴的な食品産業が根付いている長野県です。昔からある「こうや豆腐」がより健康を支える食品へと進化をとげ、地球温暖化などの影響で育成の難しくなっている「わさび」なども、逆に地域産業としてさらなる発展を遂げようとしています。
これらの強みを生かすため、長野県でも「長野県食品産業振興ビジョン」を掲げて、健康長寿に寄与する食品づくりを展開し、地域産業の振興を図るとしています。いつの時代も健康や長寿に対するニーズは非常に強いものがあり、そのニーズに長野県の優れた食で応えていくことは意味のあることです。
食品産業は単価が低くて大変だとよく言われますが、「食」の品質を磨き上げ「信州ブランド」としての高付加価値型産業へと再生することが、長野県の地方創生にとっても有効な方向性ではないでしょうか。
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