宅配便危機と働き方改革~消費者であると同時に生産者であるという視点<2017・03・27>

印刷

最終更新日: 2017年3月27日

 急拡大するネット通販

  インターネットの普及で、パソコンを叩くと殆どのモノがネットを通じて買えるシステムが今や「当たり前」となっています。それは化粧品・筆記用具など小口の商品から、運ぶことが困難な大型の家具・白物家電など多岐に渡ります。最近では、自分で着なくなった洋服など個人間でのネット取引も増加しています。結果、商品を消費者に届ける宅配便の取扱量も急増しています。国土交通省の調べによると、1989年(平成元)年に10億個だった取扱量は、2015(平成27)年には37億個になっています。ここ5年間だけでも5億個の増加です。これを市場規模でみると、2015(平成27)年の日本国内の消費者向け電子商取引では、13.8兆円(前年比7.6%増)にまで拡大しています(経済産業省調査)。

持続不可能となっている現在のサービスシステム    

  市場が拡大するということは関連事業者にとっては、ビジネスチャンスであり、喜ばしいことであるはずです。ところが、巷間マスコミで報じられているように、宅配業界では人手不足から過酷な労働環境となっており、さらに人件費コストの増加などから利益も出ないような状況となっています。この宅配危機とも言える現状に対して、大手宅配企業では基本料金を見直すとともに、大手取引先への単価引き上げ交渉などを開始したことが報じられています。また、不在者への再配達を少なくするような宅配ボックスの設置やコンビニの活用、複数の宅配業者の荷物を混載しての共同配送など、宅配システムとして改善できる面についても検討され始めました。

  なにごとによらず、必要なサービスについては、それに見合った対価がやりとりされるようにすることが必要でしょう。それにより労働に見合った賃金を社員に支払うことで、人材が集まり、成長産業を支えていくというのが経済の原則でしょう

事業になりにくいサービス産業の実態 

   しかし、現状は今回の宅配便の例に代表されるように、サービスに対して必要な対価がやりとりされないことが、「社会的に必要なサービス」を産業化することを阻んでいる点は多く見受けられます。日本ではとかく「サービスはタダ」という認識が強いようです。当研究所も必要なサービスなどの調査をしますと、「子供の見守りサービス」や「健康維持のためのサービス」などの需要の高さが把握できますが、それが事業にならない現場によく遭遇します。「必要性はあるが有料なら頼まない」という声が多いのが実態です。

 また、一方の事業者側でも、事業化できるだけの「値決め」がなかなか出来ていません。「有料なら頼まない」に応えて、「タダに近い価格」では商売になりません。いかに自社のサービスが、顧客の生活を快適にし、ひいては幸せにするのかをしっかりと伝えて、企業が存続するだけの利益がでる価格帯で売っていく努力が必要でしょう。

消費者であると同時に生産者という視点

   消費者としては、「安くて」「便利」なモノやサービスを望むことは当然です。しかし、同時に我々は皆が生産者であることを忘れてはならないように思います。「運んでもらう」、「サービスをしてもらう」という労働に対する対価を払わないことは、自分が働いても対価をもらえないことと同じだというごく当たり前のことに思いを馳せてもいいのではないでしょうか。

 話しは迂遠となりますが、我々が「消費者であると同時に生産者」という視点の重要性は、デフレのもとにおける経済の停滞という面からも説明できます。日本銀行の黒田東彦総裁は「デフレ脱却が目指すもの」という講演の中で次のように述べています。「デフレのもとでは、製品やサービスの価格を引き上げることができないため、売上高は伸びず、収益も上がりにくくなります。したがって、人件費や設備投資をできるだけ抑制することになります。一方、家計にとっては、賃金が上がらないため、消費を抑えることになります。―中略―このように、消費が抑制されれば、企業は価格の引き下げを余儀なくされます。こうして、価格の下落、売上・収益の減少、賃金の抑制、消費の低迷、価格の下落といった悪循環が続いていくことになります。-以下略―」

働き方改革に必要な「消費者としての個人」の側面  

 生産者側が十分な収益を得られない中では、従業員つまり消費者の賃金も上げられずに、結果、消費者は消費を抑え、安いモノに走るということです。この消費者の消費抑制が翻って、生産者の売上減少を惹起している。くどいようですが、結果、生産者は売るために値下げをし、利益が上がらず、給与も上がらないという構図です。

  時まさに「働き方改革」が叫ばれていますが、狙いとする生産性向上のためには、自身の仕事の付加価値を上げることが必要です。それは自らの顧客や消費者の望むものを提供すると同時に、サービスの享受者や消費者がそのサービスの価値に見合った料金を払うことが必要です。そして、過剰な労働を減らすためにも、対価が労働に見合わない仕事は見直していくべきでしょう。

 働き方改革には、このような社会通念・システムの改革が出来るのかどうかも問われているのだと思います。

 

 

関連リンク

 

 

このページに関するお問い合わせ

産業調査

電話番号:026-224-0501

FAX番号:026-224-6233