生産性向上に向けた投資の拡大を

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最終更新日: 2016年12月16日

2016年度は前年度比2.3%増額見込み

    当研究所は、長野県内企業の設備投資の動向を調査する目的で県内企業約700社を対象に「設備投資動向調査」を年2回実施しています。6月には年度当初計画を調査し、11月には年度の実績見込額と当初計画に対する修正状況を調査しています。
 16年度の実績見込額は、全産業で前年度に比べ2.3%の増額見込みとなりました。業種別では、製造業が同△3.7%と前年度を下回る一方、卸小売、建設、サービス業などの非製造業は同+17.5%の増額見込みです。また、設備投資DI(前年度に比べ設備投資額が「増加した企業割合」-「減少した企業割合」)をみると、全産業で+1.3%ポイントと前年度に比べ増加した企業の方が多くなっています。業種別でも製造業、非製造業ともにDIはプラスとなり、前年度を上回る企業の方が多くなりました。
 ただ、当初計画に対する修正状況では、全産業の修正率が△1.4%と減額修正となりました。業種別では、製造業が△0.5%、非製造業も△3.4%と、ともに減額修正見込みとなりました。昨年に比べると増加する見込みの設備投資ですが、為替が円高に振れる中で、収益面の悪化や新興国経済の減速など先行きへの不透明感が高まったことで、設備投資に対しても慎重な姿勢に転ずる企業も増加しました。
 今回の調査では地域別の投資状況も尋ねていますが、特にこうした動きは海外向け投資で顕著です。ちなみに、16年度の海外向け投資の実績見込額は、前年度に比べ35.0%の減額見込みとなったほか、当初計画に対する修正率でも11.3%の減少となりました。海外の拠点整備が一服した影響もありますが、新興国の景気減速が予想以上に長引き、下方修正する動きになったものと思われます。

設備投資の先行きを占う上での注目点

    今後の設備投資の行方を占う上で、国内外の経済動向が注目されますが、とりわけ海外については米国の新大統領トランプ氏の政策の行方が注目されます。既にドル安方針やTPP離脱を宣言していますが、こうした影響がどのように自社の業況に及ぶのかが見定められないと、投資が手控えられる懸念があります。なお国内では経済対策の1つである16年度のモノづくり補助金の申請が11月から始まりました。国では経済成長のため企業の生産性の向上に向けて設備投資を促したい意向です。
 生産性の向上に向けた設備投資は、人口減少が進む中で経済が成長するためにも欠かせないものです。これには先ずITの活用などが期待されますが、中小企業のIT投資はあまり進んでいません。2016年の中小企業白書によれば、IT投資を行わない理由として「ITを導入できる人材がいない」、「導入効果がわからない」、「コスト負担ができない」などが挙げられ、こうした課題によって投資が進まない実態がうかがえます。ただ、高収益企業とそうでない企業を比べると、高収益企業はIT導入を従業員とのコミュニケーションの向上や業務プロセスの見直しに活用し、収益拡大につなげています。
 政府は、今年1月に「2030年の製造業のあるべき姿と課題」を示していますが、あるべき姿の1つとして「中堅・中小企業へのITやIoTの浸透」を挙げています。そのための施策として、ITやIoTをコスト削減や生産性向上のツールとして活用することを促したり、IT人材の不足を補う意味でも、中小企業に対する行政や外部専門家などによるきめ細かな支援を実施することを掲げています。
 今後、人口減少のスピードが高まる中で、生産性向上は待ったなしの状況です。ITやIoTで先行する欧米の動きに遅れることなく、「攻めの投資」を実施して自社の生産性を向上させていくことが期待されます。
 

(初出:2016年12月15日付 南信州新聞「八十二経済指標」)

 

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