過疎化対策としての教育力<2016.11.15>

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最終更新日: 2016年11月15日

 昨年から国主導で地方版総合戦略を策定するなど、地方創生の動きが活発化しています。

  主な目的は、地方に人を増やすこと。そのために必要な産業を地方に興したり、都会からのI・Uターンを促したり、結婚・出産・子育ての支援を行う一連の施策が「地方版総合戦略」として自治体毎に策定されました。長野県でも県始めほとんどの市町村で地方版総合戦略が策定され、それぞれ特徴ある施策が展開されています。

  そんな中、先日南佐久郡にある北相木村、井出高明村長を訪ねてきました。

  北相木村には信号もコンビニもなく、人口も800人ほどと県内でも有数の過疎の村です。この北相木村の地方創生の取り組みが実にユニークなもので、「教育を充実させることで子供たちを増やそう」とするものです。同村では30年程前から自然を生かした「山村留学」として、全国から子供を集めていました。ところが自然環境だけでは子供たちは徐々に集まらなくなり、井出村長が村長に赴任した頃には小学校への入学児童が遂に1人になってしまうという事態を迎えました。

  これでは小学校を村で維持することはできません。井出村長は、「小学校もない村というものはあり得ない」という強い考えから、なんとしてでも学童を増やさなくてはと教育委員会や学校とチエを練りました。結果が「山村留学」の復活です。この時着目したのが埼玉県に本部を置き、関東を中心に16,000人の塾生が在籍する「花まる学習会」という人気学習塾でした。花まる学習会では、「子どもたちが本当に幸せになるためには、将来、魅力的な人、そしてメシが食える大人になることが大切」だとの考えから、子供たちが達成感や自尊心が持てるようになるカリキュラムを組んでいます。

  同村では2011年、北相木小学校に「花まる学習会授業」を取り入れて、山村留学を募り始めました。その結果、遠くは沖縄からも留学生が来るようになり、現在では小学校の児童が60人にまで増えています。子どもたちは一年の留学を経て、それぞれの故郷に帰っていきますが、その間低学年の子供などは母親とともに北相木村に住むことになります。これは地方創生が進める二地域居住であり、父親は故郷で一人暮らしをしながら週末に会いに来るという逆単身赴任とも言える形態をとることになります。そして、北相木村を気に入ってもらえれば移住にもつながります。実際に同村の村民の約2割はIターン者が占めています。

  井出村長は「地方創生で地方に職を作ることも重要だが、実は当村のようにベッドタウン的な役割を負いながら、そこでの子供への良質の教育などの魅力提供こそ重要だ」と語ります。当然、この試みは大きな市などでの30人学級では難しい試みです。過疎地であればこそ出来る「短所を長所に変えた」事例であるように思います。

  地方創生では、過疎地の活性化が最も悩ましい問題です。やりようがないというのが多くの過疎地の実態ではないでしょうか。そうした中で、北相木村のような「村の課題」と「山村留学」という村が取り組んできた資源を生かせば、実は解決の方向性が見えてくるのかもしれません。

 

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