農業を軸とした地方創生<2016.2.16>

  先月、りんごの産地として有名な飯綱町を訪ねました。峯村勝盛町長に農業を軸とした地方創生について話をうかがいました。

 飯綱町では、「りんご」や「水稲」などが有名ですが、この強みを軸に町づくりをしていこうと考えているそうです。峯村町長は「農業は産業であるとともに、暮らしであり、文化である」と言われます。「農業は人間の本性をくすぐるもの。稲を自分で植えれば、その成長が楽しみになるし、収穫には喜びも生まれる。精神衛生上、非常に優れた効果がある」。さらに「そこからは豊かな生活が生み出されている。農業のことを英語で『アグリカルチャー』というが、カルチャー=文化でもある」と価値を説明いただきました。

 飯綱町では、長野市などへ勤めながらの兼業農家がほとんどですが、農業の価値を考え、そうした兼業農家への支援にも力を入れます。また、耕作放棄地が地域全体を疲弊させてしまうことから、その受け皿となる農業生産法人の設立も構想しています。

 専業でも兼業でも課題は、「高付加価値化」です。現在同町では、競争力のある農業を目指して、ICT(情報通信技術)の活用を試行しています。まず、ICTを使い気候や土壌のデータを蓄積し、農作物の栽培に適した条件を分析します。さらに、販売面でもICTを使い、例えば栽培から収穫までリンゴに関する様々な情報を消費者に届けることで差別化を図ろうとしています。

 様々な組み合わせで、強みはさらに強くなります。農地を広げていくことで、それ自体が貴重な観光資源となります。飯綱町には、里山があり、そのふもとに集落と田園が広がる日本の原風景があります。まるで時代に取り残されたようなこの風景が、今では人気となっています。外国人観光客が増えていますが、彼らが望むものは素朴な農村の風景なのです。

 このような地域の素晴らしさに住民が気付き、誇りを持つことで、自分の町を奇麗にしようという行動に変わっていきます。一流の観光地の最も重要な条件は、ゴミがなく奇麗ということでしょう。それを維持していこうとする住民の思いが、魅力ある地域を作ります。

 「田舎の素朴な自然の中で家族そろって夕食を食べ、夜には満天の星を眺める生活こそが幸せだ、という新たなライフスタイル・価値観を飯綱町から発信していきたい」と峯村町長は語られました。

「新たなライフスタイルを長野県の農村から」というメッセージは多くの町村長から聞かれます。新しい時代に向けて地域が動き出したのだと思います。

(初出)朝日新聞平成28年2月16日朝刊「けいざい応援通信」『暮らし文化農業に在り』

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