航空宇宙産業の集積を目指して<2015.10.14>

 今回は先月、飯田市で行われた航空宇宙産業に関するシンポジウムからの報告をします。
 現在、当地域では航空宇宙産業の集積に取り組んでおり、「アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区」への参入を果たすなどプロジェクトが進んでいます。今回のシンポジウムは「航空宇宙産業を先導役として地域産業の将来を考える」と題し、真の地方創生のために地域産業がどうあるべきかを考えました。私も地域シンクタンクの立場から参加したものです。
 航空機産業が集積するカナダ・ケベック州の支援機関、クリアックのオーベルタン副社長は、同州での航空機分野への産業転換に向けた政府の決断と、それを可能にした産学官連携の仕組みを紹介しました。特に「研究機関の充実、優秀な人材教育と確保は不可欠である」と訴えられました。経済産業省製造産業局の飯田陽一参事官は、今後10年間で航空機産業の規模は倍増すると展望を語り、「そのチャンスを手にするためにも、国内に航空機産業の集積を形成することが必要」との認識を述べられました。
 続くパネルディスカッションでは、コーディネーターの萩本範文・多摩川精機副会長が「日本産業が元気を取り戻すには、新しい産業を興していく成長戦略以外ない。国の経済危機を乗り越えるため、航空機産業へ大胆にかじを切ったケベック州の取り組みは大いに参考になる」。そして「地方創生でも、地域に知の拠点を作らないことには本物にはならない」と強調されました。三浦義正・信州大学副学長からは、同地域へのキャンパス設置も見据えた「航空機システム共同研究講座」を、2017年4月に開講する同大学の構想が説明されました。
 全体の議論を受けて、牧野光朗・飯田市長は、地域が生き残るために航空宇宙分野を選択した理由、行政の支援・仕組みづくりを改めて説明、宣言されました。
 地域を元気にしていくためには、萩本副会長からの指摘にもあったように「今後も生き残っていけるような産業づくり」が重要です。この際、新たな産業づくりのため基本的に必要なことは、一つに、その地域の強みから新たな方向性を見いだして、旗を掲げること。二つに、旗印を実現するための仕掛けづくり、人づくりです。同地域の強みは、多品種少量生産技術の集積や、航空機産業の集積地である中京圏に近い点でしょう。
 これを踏まえ、牧野市長の宣言により、改めて「航空宇宙産業」という地域産業の旗印が確認され、「知の拠点」づくりの構想も共有されたものと思われます。この「知の拠点」については、信州大学の参画によりさらに加速していくことが期待されます。
 そして、これらの仕組みを整えつつもなお、最終的には、どのようなことがあっても事を成し遂げようとする「人の執念」が欠かせません。製糸業から精密機械産業への転換を成し遂げた先達の偉業を振り返りながら、「現状においてもこの執念は当地で健在である」との思いを私の方からは述べさせていただきました。
 当会には、約500人が来場されました。会場に詰めかけた多くの方々の思いを一つにできたシンポジウムだったように思います。


(初出)平成27年10月14日朝日新聞朝刊「けいざい応援通信」『航空宇宙産業旗印に前進』

関連リンク

このページに関するお問い合わせ

産業調査

電話番号:026-224-0501

FAX番号:026-224-6233