人材の集積、地方創生の要<2015.04.08>
アベノミクス第3の矢「成長戦略」では、地方創生を一つの柱に据えています。とりわけ、都会から地方へ企業を移し、雇用機会を増やすことは重要です。このような中、2年前に長野市に「長野ブランチ(支社)」を設けたアソビズムという会社があります。同社は東京のスマートフォン向けゲーム製作会社で「ドラゴンポーカー」などのヒット商品で有名です。
「なぜ、人気のスマホゲーム会社が長野市に拠点を?」。こんな疑問を抱きながら、長野ブランチに社長の大手智之さんを訪ねました。
長野市桜枝町の老舗旅館をリノベーションしたオフィスは、若い社員で熱気に溢れていました。「わが社の経営理念は『得意を活かす』」「得意で好きなものだからこそ、頑張れるんです」。大手さんは、自らの経験をもとに仕事や地域への思いについて語ってくれました。
大手さんは、小学生の頃にコンピューターと出合い、プログラム作りの魅力に取りつかれました。両親も好きなことを思い切りするのがいいと、それを伸び伸びやらせてくれ、小学校5年生の時には父親の会社の在庫管理システムを作るまでになっていました。
これほど好きなコトですから、逆に仕事にするという発想はなく、何年か気乗りのしない別の道を模索していたそうです。浮かない姿を見たガールフレンドがかけた「仕事は好きなものをするもので、嫌なことをやっても力はだせない」という言葉が大きな転機となります。「好きなことを仕事にしていいんだ」。それからは、昼夜を問わずプログラムに取り組み、27歳の時に運命の彼女を妻にし、共にアソビズムを立ち上げます。「自分は天才でなく凡人。しかし、好きだからこそ並外れた努力ができる」。大手さんは『得意を活かす』という企業理念に込められた仕事への思いを語ってくれました。
長野との縁は、大手さんの長女が参加した長野での自然体験キャンプ。大手さんは、自身の体験から教育のあるべき姿として、五感と想像力を養うための自然体験を重要視します。IT(情報技術)が発達すればするほど、この人間にしかない能力が必要になるとの考えからです。そして、長女の長野での幼稚園入園の後に、アソビズムの拠点も長野に設置されることとなったのです。
「僕は既に長野県民のつもりです」。自然豊かな長野県だからこそできる人づくり、地域づくりへの大手さんの挑戦も始まっています。同社は「未来工作ゼミ」という人材づくりの講座を開設して、ワークショップを通じたクリエーティブな人材育成を目指しています。「この長野県で人を引き付けられるような人材をどれだけ育てられるかが、地域づくりには最も大切でしょう」と言います。
地方が自立するためには財源のみならず、地方のチエが試されます。自ら考え、創造できる人材の集積こそが、地方創生の要になるのではないでしょうか。
(初出)平成27年4月8日朝日新聞朝刊「けいざい応援通信」
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