コラム「けいざい応援通信」より<2014.11.26>

 「モノが売れない」「会社がつまらない」「何のために仕事をしているのか分からない」というのが、多くの人の日常ではないでしょうか。そのような中でも、つまらない日常を面白いものに変えていくパワフルな人というのはいるものです。
 先日、県社会保険労務士会主催のパネルディスカッションでご一緒した、自動車エンジニアの水野和敏さんもその一人です。水野さんは知る人ぞ知る日本初のマルチスーパーカー「GT―R」の開発責任者で、千曲市の出身、長野高専を卒業されています。
 小学生の頃からものづくりへ強い興味を抱き、高専時代には既にフォーミュラーカーを丸ごと1台を造る実力になっていました。日産自動車では、技術が分かる営業マンとしてトップクラスの実績を残したそうです。
 そんな時、両足を失ったお客様の「自動車は自分の足、生活そのもの。あなたが言う知識や技術で買っているわけではない」という言葉に大きな衝撃を受けます。「独りよがりで車を造っても、それをお客様が喜んでくれなかったら何の意味もない」と気づき、それからは働く視点を「お客様を喜ばせること」として全うしました。
  「会社のため、自分のため、などと考えているから、人生がつまらないものになる。人のために尽くそうとする視点から考えれば、社会の中での自分の役割が見いだせる。自分の役割が見いだせれば、人生は楽しい」。そして「会社はお客様が喜ぶために自分がしたいことを実現する手段だ、ぐらいに考えるのがちょうど良い。会社の枠で自分の枠を決めてしまっては、自分の役割は見いだせない」と続けます。
 さらにこうも言います。「人の能力は無限なのに、人を単なる作業量である『工数』と数えることで能力に封をしてはいけない。人が動物と違う最大の点は、想像できることにある。人が想像力を活(い)かせば、能力は2倍にも3倍にもなる。それは『能数』と考えるべきだ。その社員の想像力をどこまで引き出せるのかがマネジメントの神髄である」
 こうして生まれたのが「GT―R」です。あえて、ヒト・モノ・カネ・時間を従来の半分にして、人の能力を最大限に引き出すことができたからこそ、開発に成功したのだと教えていただきました。


 信州の大自然で育った我々は、豊かな想像力を内に秘めているはずです。それを発揮し、枠を一歩踏み出し、お客様のために働くことで、生き甲斐(がい)のある人生と、豊かな社会が築けるに違いありません。

 

(初出)平成26年11月5日朝日新聞朝刊「けいざい応援通信」

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