人口減少対策としての高速交通網を考える<2014.09.22>

再燃する人口減少問題への対処

 人口減少をめぐって「日本創成会議」が5月、地方から大都市への人口流出が現在のペースで進めば、今後30年間で20~30代の女性が半分以下になり、将来消滅する可能性がある市区町村が全国で896に上るとの試算を公表し、日本全国に大きな衝撃が走った。長野県内でも、77市町村のうち34市町村が該当する。
 県内市町村では、かねてから人口減少に対して、子育てしやすい環境作りや、IUターン策の充実による自治体住民の増加策に力を入れてきた。そうした機運にはあったが、この「消滅自治体宣言」は、人口減少対策に対しての議論を再燃させている。
 これが、ただいたずらに危機感を煽ったり、小さな自治体から希望を削ぐような流れになるなら迷惑千万な話だが、ここでは建設的に「早めの対策に着手すべし」というメッセージと受け止めたい。

高速交通網が整備される中、期待される二地域居住

 この議論再燃の中、いよいよ来年4月には北陸新幹線が金沢まで延伸し、13年後にはリニア中央新幹線が飯田を通る。また、日本海から太平洋までを横断する中部横断道や三遠南信自動車道の構想も進む。長野新幹線開通以来、北陸・関東・中京など各地と長野県との時間距離が飛躍的に縮まるチャンスが再来する。
 これと人口減少を考え併せてみるなら、真っ先に見えてくるのが「二地域居住」を通じた人口増加の姿ではなかろうか。「二地域居住」とは、都市の住民が週末など一定期間を農山漁村で暮らすものだ。少々古いが、2005年の国土交通省の調査では、2030年に二地域居住者が約1千万人になるとしている。
 よく耳にする都会の人達の心情は、「都会の雑踏からせめて週末ぐらいは解放されたい。田舎で暮らしてみたい。しかし、なかなか実行となると話は別。」というものだ。それは遠くの田舎には物理的にも心理的にも壁があるからだ。ところが、それがわずか新幹線で1時間~1時間半程度、リニアだと東京から45分、名古屋から30分程度ということになれば、その壁は格段に低くなる。リニア新幹線により、飯田にも二地域居住の扉が開かれたとも考えられる。

二地域居住の先にある、定住先としての長野県

 二地域居住を始めるということはある意味、その地域とお見合いをしているようなもので、気に入ってもらえるなら結婚、即ち「定住先として選択」ということにつながる。定住者が増えると、長野県の人口減少に一定の歯止めをかけることにもなる。団塊世代が65歳を過ぎてきている現在、都会では爆発的に高齢者層が増えている。退職後の「高齢者の受け皿としての長野県」という立ち位置も明確に打ち出していくべき時期を迎えている。
 地方都市で大都会の高齢者が元気に活躍していく構図は、「過密な都会に対して過疎化する田舎」といういびつな人口構造を抱えてしまった日本社会の再構築の方向性とも考えられる。さらに、比較的移住し易い地方都市が活性化すれば、周辺にある中山間地域の農業に再生の糸口を与えるものにもつながる。それは、農業法人などが設立され、そこに都会で退職を迎えた人材が集うという、中山間地域での新たな産業創出の姿とも言える。こう考えるのなら、都市と地方の交流は、食糧自給率をアキレス腱とする日本社会にとって一つの解を提供するかもしれない。
 長野県が移住地として選ばれるためにも、今は「長野県の魅力の再構築」が必要な時期にある。北陸新幹線の金沢延伸まで半年、リニア中央新幹線開通まで残された期間も10年少々。
チャンス再来とは言いつつも、成否は挑戦できるかどうかにかかっている。

(2014.09.22)

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