アベノミクスの成否は地方経済の回復にある(2013・5・16)
円安・株高傾向が続き、ことし1~3月期の実質国内総生産(GDP)は、個人消費が下支えする形で2四半期連続のプラス成長となる見込みになるなど、景気は全国的に回復基調にある。
それでは、長野県経済は本格的な回復の緒に就いたのだろうか。
長野経済研究所が4月に県内企業139社を対象に実施した緊急調査では、経済政策「アベノミクス」を進める安倍政権発足後の各社の業績変化では、「変わらない」という回答が67・6%で、「回復してきている」という回答は26・6%にとどまっている。
本格的な景気回復となるには、実際の需要が増加し、売り上げが増え、利益が出て、賃金が上がり、消費が増えていく―という循環が必要だ。特に、今回のアベノミクスでは、ほぼ20年続いたデフレ経済を脱却した上での回復を目指している。金融・財政政策の第一、第二の矢に次いで、成長戦略を掲げる第三の矢により日本企業の国際競争力を上げ、新たな市場を作り出し、デフレを脱却するということだからハードルは高い。
振り返ると2002年から08年までの景気回復局面でも、仕事量は増えたが、厳しい価格競争で賃金は増えなかった。そのため、内需は振るわずデフレ脱却には至らなかった。今回もここを乗り越えないことには、瞬く間に不況に舞い戻ってしまう。
アベノミクスが成功するためには、まず安定した円安傾向の中で、輸出・生産が回復する必要がある。現在は、円安で企業の為替差益が増えているにすぎず、生産・販売の数量が増えているわけではない。今後、円安による競争力回復で生産・販売量が増加すれば、下請け企業が多い長野県製造業の受注も増える。そして、もたらされた業績回復を守りから攻めへのチャンスとして、県内企業は付加価値の高い新規事業を展開するための転換点とすることが重要だ。これが地方にとっての第三の矢だ。
今こそ厳しい価格競争の土俵から、勝てる土俵に移り、利益を生み出して賃金を増やすことが望まれる。地方企業が新しい需要をつかみ、事業を拡大することで、モノとお金が動きだし、結果として消費者物価の2%上昇を達成するというのがアベノミクスのゴールとなるべきであろう。長野県企業にとっても、背水の陣で臨むべき時期に来ている。
(初出:信濃毎日新聞2013年5月14日朝刊「提言直言」『アベノミクスの成否は地方経済の回復にある』)
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