「生活習慣の見直し」は日本の経済問題解決の第一歩(2012・12・21)

 急激な高齢化に伴う医療費の増加は待ったなしの状況だが、一方で現役世代の健康状態も悪化傾向にある。生活習慣病やうつ病などの気分障害の増加だ。師走の選挙では財政再建も大きな争点となったが、現役世代の健康問題は、財政問題以上に経済を支える働き手の毀損につながっているという点で深刻である。


 日本では今後、働き手(就業者人口)が大幅に減る見通しだ。当研究所の推計では、長野県では20年後の就業者数は約90万人と、現状の109万人に対し約19万人も減少する。現在の経済力を維持するには一人一人の生産性向上が必須だが、体調不良者が増えている現状からみると事態は逆行しているようだ。


 そんな中、事の本質を考えさせられるような講演を聞く機会があった。講師は東海大学教授で医学博士の小沢治夫氏。15年ほど前、子どもたちの体力や意欲、学力の低下の原因は健康状態にあるのではないかとの仮説を立て、研究を始めた。
 体育を教えていた筑波大付属駒場高校で調査すると、30年ほど前にはほとんど見られなかった貧血が生徒の約4割で確認された。寝不足の子どもは朝食を食べられずに貧血になることが多く、朝食を食べている子といない子では主要5科目の試験で合計50点も違うという調査結果も出た。同高校は東大進学率の高さで有名だが、生活習慣を正すことで指導するサッカー部員の約6割を東大に現役合格させたという。つまり「良い生活習慣が体力、意欲、学力を向上させ、人生さえも変えうる」とのことだった。


 子供の教育問題だけの話だと思うなかれ。子供に影響することが大人に無縁であるはずがない。生活習慣病予防のための食や運動の重要性はよく説かれるところだが、肝心の良い生活習慣という土台がなくては、これらの効果も半減してしまうだろう。また、睡眠不足が気分障害につながっていることも、よく指摘されている。


 財政が悪化し、人口が減少する中で、自らの健康を自ら守ることはもはや国民の義務である。日本経済をめぐる問題を解決するための第一歩は、労働環境も含めた「生活習慣の見直し」にあるのではないだろうか。


(初出:信濃毎日新聞2012年12月21日朝刊「提言直言」『「生活習慣」の見直しは日本の経済問題解決の第一歩』)

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