ユニバーサルデザインで社会・経済を元気に(2013・01・04)

ユニバーサルデザインについて考える

 皆さんはユニバーサルデザイン(UD)という言葉をご存知だろうか。「なにをいまさら」という方から、「なにそれ?」という方までいろんな感想を持たれる方がいらっしゃるのではないだろうか。

 昨年11月、まつもとユニバーサルデザインネットワーク研究会主催の「ユニバーサルデザイン・キャンプ2012」という催しに参加し、多くの識者のご意見をうかがう機会をいただいた。

 久しぶりのコラム執筆となるが、今回は、「高齢化し多様化する日本でこそ、UDは社会・経済を元気にする可能性を秘めているのではないか」、とUDについて改めて考えてみたい。

 まず、UDについてだが、これはバリアフリーの概念を拡大し、「できるだけ多くの人が利用可能であるようなデザインにすること」と、1980年代にアメリカのロナルド・メイスという自身も障害をもつノースカロライナ州立大学の教授によって提唱された。バリアフリーは障害を持つ方を対象とした商品だが、一口に障害をもつ人といっても、視覚、聴覚、四肢、内臓等々さまざまで程度の差もある。さらに考えてみれば誰もがケガなどで一時的に障害をもつことはあるし、言葉のわからない土地に行けばコミュニケーションに障害を持つことと同じになる。であるなら、範囲をより広げたモノや空間が提供されるなら、我々の生活はより便利に豊かになるのではないかということである。
 例えば、身近なものでは、複数の外国語で表示された案内板や、車椅子の方でも使える広いトイレ、お風呂などのインテリバーや、身近では、長時間使っても疲れないラバーグリップボールペンなどがUDを配慮したモノと考えられる。高齢者や障害者のみならず、我々にとっても便利なものばかりだ。

まつもとユニバーサルデザインネットワーク研究会

 こうした背景を踏まえ、冒頭紹介した「まつもとユニバーサルデザインネットワーク研究会」は、異業種が参加する形で9年程前に発足した。出来るだけ多くの人を対象とした「快適で使いやすい日用品、家電、情報通信機器、住宅、そして社会環境としてのまちづくり」を目指し、まちづくり、ものづくりを進めている。また、松本市でも、UDの考え方を市政に反映させるために「松本市ユニバーサルデザイン推進基本指針」を策定している。実際のまちづくりの場面でみると、2001年から松本駅及び周辺などを整備している。例えば、歩道と車道の段差をなるべくないように改修したり、体格に応じた2段式ベンチを配置している。さらに東西自由通路では、階段の両脇にエレベーターとエスカレーターを新たに敷設し、使いやすいものを選択できるようにしている。
 そして、インフラ整備もさることながら、市民に対しては、「UDの考え方を理解していただき、相手を思いやる心をもって行動していただくことが重要なこと」と訴えている。UDの要諦は、このような誰に対しても差別なく思いやる心にあり、その推進こそが魅力ある地域づくりにもつながるように思う。

社会・経済を元気にするUD

 現在、高齢化が急速に進む中、最も目の肥えた団塊世代が高齢化層となっており、元気な方から障害を抱えた方まで、実に多様な人たちが長野県に暮らす。同時に、モノ余りと言われて久しいが、本当にこうした多様な人たちのニーズに沿ったものが提供されてのモノ余りなのか、甚だ疑問だ。製品開発にしても、まちづくりにしても、これらの多様な人たちを思いやっているとは到底思えないのである。
 どうしたらいいのか。提唱者R・メイス氏のUDの7原則がヒントになる。簡単に紹介するなら「誰でも公平に利用できる。使う上で自由度が高い。使い方が簡単。わかりやすい。安全である。楽に使える。利用しやすいスペース」などの要素を取り込んだ商品開発だ。

 UDが提唱されて30年程経つが、より多様化するニーズへの対応が必要な今、UD的な思考は再評価されるべきだろう。こうした考え方をヒントとすることで、より多くの方に喜んで買っていただける商品・サービスの開発が、従来に比べより一層進むと考えられる。
 そして、「UDなら長野県」という環境が整うのなら、思いやる心やモノに対し、周りから自然に人々が集まり、元気な長野県の機動力となるのでは。大いなる期待を寄せている次第である。

 

(初出:12月7日「南信州新聞」に一部加筆修正)

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