東日本大震災が訴える“分散の仕組み”(2011.05.10)

東日本大震災の爪痕

 東日本大震災は日本経済に甚大な影響を与えた。3月の経済統計には、その爪痕が克明に見てとれる。
 例えば、生産量を表す鉱工業生産指数は2月に比べ15.3%低下。この落ち込み幅はリーマンショック後の2009年2月に記録した8.6%を上回り過去最大のものとなった。特に、自動車業界が属する輸送機械では▲46.4%と大きい。また、薄型テレビの国内出荷台数も対前年▲2.9%と、統計を取り始めた2001年1月以来初めてのマイナスを記録した。
 東日本大震災の及ぼす影響は、東北や関東の一部製造業の問題にとどまらず、サプライチェーンを通じて自動車産業や電気機械産業全体を大きく揺るがすということを浮き彫りにした。ものづくりは世界規模でのサプライチェーンで構成されていることが明らかになり、日本の素材・部品の担う役割の大きさにも改めて気付かされた。

長野県製造業もこうしたサプライチェーンに深く組み込まれている

 こうしたサプライチェーンが壊れることによる長野県製造業への影響はどの程度だったのか。
 当研究所では、4月中旬に県内製造業約60社に緊急の電話ヒアリング調査を実施した。結果、9割の企業が大震災の間接的な影響がありと答え、その内容として「資材調達が困難となった」または「困難となる見込み」が7割、「販売先からの受注減少」あるいは「その見込み」が4割と、県内製造業にもサプライチェーン毀損による大きな影響があることが分かった。
 具体的に聞いてみると、「取引先の操業停止に伴い、受注が減少した」、または「生産に必要な資材の調達ができないため、生産を減少させた」などの答えが得られた。

サプライチェーン回復への目途は半年から1年

 県内製造業は、サプライチェーンの回復の時期をいつ頃とみているのか。
 経済産業省が4月26日に発表したサプライチェーンに関する調査では、夏までに被災した拠点の9割が復旧する見通しとしている。
 県内製造業でも、3割が「半年程度での回復」、2割が「1年程度での回復」との見通しを立てている。
 最近の前倒しでのサプライチェーン回復振りをみる限り、新たな大きな余震や、原発問題のさらなる深刻化、電力不足問題など不透明な要素が現実とならなければ、今年度後半の回復は期待できよう。

分散の受け皿としての長野県

 今回の大震災であぶり出された製造業の姿は、生産のためのサプライチェーンがいくつもの国の間でつながれており、それが近年の生産工程の合理化により一本のチェーンに合理化されていたということだ。従って、今後は、合理化のため進めてきた取引先の集中を、再びサプライチェーンを頑丈なものとするため、分散させる方向に世界の製造業は動くことが予想される。
 さらに、この分散の視点は、多方面に及ばざるを得ない。マグニチュード8レベルの東海地震が30年以内に起こる確率は87%とされる。すると首都機能や本社は東京だけでいいのか。生産拠点は・・・と様々な分野にわたる分散化が現実に問われる。
 そうした際に、長野県の立ち位置としては、分散の受け皿としてどうあるのかということだ。製造業では分散化される取引先の一つとしての自社の可能性を問い、取引先拡大に繋げていく機会が訪れたと捉えるべきだ。そして、新たな生産拠点や研究開発拠点としても、東京から近く、地震のリスクも比較的小さい点を再評価し、今後の持続可能な日本経済のお役に立つ「東でも西でもない長野県」という立ち居地を確認すべきときだろう。
(2011.05.10)

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