長野県は新たな食いぶちをつくれるのか(2011.02.28)

 新興国の台頭により国内製造業は苦戦を強いられ、農業や観光業への期待が高まっている。国の新成長戦略でも、観光・農林水産業は七つの戦略分野の一つとなっている。私も観光、農業には、製造業に次ぐ長野県産業の第二の柱になって欲しいと考える一人だ。
 ところが、これらの産業の実態はあまりに厳しい。
 2010年の農林業センサスによれば、1990年に20万人近くいた県内の農業就業人口は、この20年間でほぼ半減している。就業者の平均年齢も66.8歳とこの5年間に2.8歳高齢化が進んだ。また、当研究所の調査によれば、観光の主な担い手である「旅館・ホテル業」の景況感は、景気の良し悪しとは無関係に万年「低調」を抜け出せないでいる。スキー産業に至っては、利用者がピーク時の7割減となっている。
 このギャップをどう考えるべきか。
 確かに、食糧や観光の需要は世界的に高まってはいるが、その事とそれを受ける企業や地域の実情とは全く別物、ということを認識しなくてはならない。いくら成長分野と言っても、個々の企業にそれを受け止めるだけの力がなくては「チャンス」は画餅にすぎない。要するに、企業の経営力や環境対応力の弱さがボトルネックとなり、その解消が困難なことがこのようなギャップを生んでいる。
 観光業は特に、企業の経営努力と地域の戦略がかみ合って、初めて歯車が動きだす。ギャップを解消するためには、強い企業を核に、地域が一体となった取組みが必要だ。町や村による地域の方向を指し示す旗振りや、それに向け経営力を高めるための経営支援、企業間の連携を促す仕組みなど、企業経営と併せた地域の経営が求められる。地域と不可分の農業についても共通する点は多い。
 観光や農業で地域を潤すことは生半可なことではない。われわれはあらためて次の成長期待産業が最も厳しい実態にあるという現実と向き合い、県内の総力を結集して新たな食いぶちを作り上げなくてはならない。
(2011.02.28)

(初出)信濃毎日新聞2011年2月28日朝刊「提言直言」『長野県は新たな食いぶちをつくれるのか』

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