2011年を展望して~芽生えた新技術の成果を産業に~(2011.01.05)

2011年の景気は“前半は踊り場的、後半から持ち直す”

 昨年後半の日本経済は、輸出の減速やエコカー補助金など政策効果の剥落などにより減速傾向を強めた。この足踏み状態は、2011年の前半は続くだろう。しかし年後半は、海外需要の持ち直しに伴う輸出の増加や設備投資の持ち直し、及び政策効果剥落の影響が一巡すること等から緩やかな上昇が予想される。
 景気のけん引役も海外なら、リスクもやはり海外にある。欧州ではユーロ加盟周辺国の財政再建計画の実行が不調で、追加金融支援等が上手く行かない等の状況に陥れば金融不安が再燃する火種を抱える。米国も景気底支えのための新たな金融緩和策を昨年決定したが、依然不動産市場の動向は流動的で、金融機関の破綻などが増加する可能性も拭えない。そして、中国、インド、ブラジルなどの新興国は先進国の金融緩和による資金が大量に流入しておりインフレ基調にある。インフレに対する金融引締めなどの政策がタイミングによっては経済を停滞させかねない懸念もある。
 リーマンショックをなんとか乗り切った各国の手腕を信頼し、こうしたリスクを乗り越えながら成長シナリオが実現する2011年を期待したい。

地道な研究の積み重ねが芽を出し始めている

 今年の経済の標準シナリオはざっとこのようなところだろう。しかし、これだけでは「ああそうですか」という「ヒトゴト」の話としか聞こえないかもしれない。
 以下、昨年多くの成果をもたらした科学技術の成果の主だったものを振り返り、それから成長する長野県の可能性について考えながら、年の初めに相応しく強く握り拳を突き上げておきたい。
言うまでもなく、昨年は科学技術に関する快挙が多かった。基礎的な科学は地道に積み重ねられ、技術として着実に孵化をしてきている。
 まずは、小惑星探査機「「はやぶさ」の成功だ。7年の歳月を掛け20億キロを旅して小惑星イトカワから惑星のかけらを持ち帰った。地球外の物質を持ち帰れたのは、アポロ計画での月の石以来のことで、日本の宇宙部門に関する技術力の高さを証明した。
 宇宙分野の広がりに、新たな事業機会を期待する長野県企業は少なくないし、そうした動きも良く聞かれるところだ。実際、元旦の信濃毎日新聞の1面には、信大大学院の中島厚教授が近く発光ダイオードを使った可視光通信を実験する世界初の人工衛星製造計画に本格着手し、そこには県内企業の参加を募りたいという記事が踊った。長野県にとっての2011年を占うような明るいニュースである。
 そして、ノーベル賞では日本人の科学者が2人も化学賞を受賞し、日本で累計7人目の化学賞という快挙となった。一方、物理学賞では炭素原子でできた最も薄く強い透明なグラフェンの発見者に贈られた。実は、これを筒状にしたものが、良く知られた信州大学工学部の遠藤守信教授が量産化に成功したカーボンナノチューブであり、既に携帯電話やノートパソコンのリチウムイオン電池の長寿命化に使われている。今回のノーベル物理学賞では信州大学や遠藤教授の研究の卓越性が認識されたことと解釈できる。外野の私ごときが言うのは失礼なのかもしれないが、個人的には「次」の可能性も非常に高まったのではないかと思う。長野県がナノテクノロジーの拠点となることだって夢ではない。
 個別企業の実績としては、昨年12月に諏訪市のサンメディカル技術研究所の植込型補助人工心臓"エバーハート"が遂に20年の歳月をかけ薬事承認を取得し、今年の3月より販売の見込みになった。IT産業、電気機械産業の次を構想する長野県産業にとって医療機器分野は最も熱い視線が注がれている分野のひとつだ。医療機器は体に与える影響の大きさに応じ、薬事法で4つのグループに分類されているが、人工補助心臓は当然最も影響が大きく、許認可が最大級に難しいグループに分類される。この開発に成功し、認可されたことの意味はとてつもなく大きい。
 地域の医療機器産業を育成する仕掛けも始まっている。長野県、信州大学、経営者協会では、これからの成長分野である医療機器分野を強力に推進していこうと「信州メディカルシーズ育成拠点」を信州大学医学部内に設置した。それに県内の多くの企業が開発に参加できるよう「信州メディカル産業振興会」も立ち上がっている。
 サンメディカル技術研究所に次ぐ成果の誕生も大いに期待されるところだ。

芽生えた新技術の成果を産業に

 昨年は「技術に強いが、商売に弱い日本」と揶揄される場面が多かったが、基本的な科学技術や基盤技術がなくてはまともな産業基盤など根付くはずもない。科学の専門家に聞けば、こうした基礎技術が根付くのには新興国ではあと10年、20年はかかるという。さらに言うなら明治以降、日本政府が進めてきた科学技術振興に力点を置いた教育政策がここにきてようやく花を開いたとさえ評価する声もある。確かに、中国、韓国では、いまだに自然科学部門でのノーベル賞受賞実績はない。最先端科学が成果を上げるためには、とほうもなく時間がかかるということなのだろう。
 2010年代の日本はこうして芽をだし始めた先端技術と勝負どころのビジネスモデルで成長するステージに入っており、価格競争に陥った分野は新興国に移すぐらいの勢いが欲しい。
 「油断禁物」ということは言うまでもないが、今年は、芽生え始めた新技術の成果を長野県産業の強みと結び付け、成長分野と期待される健康・医療、環境、次世代の乗り物などの産業に生かす目途をしっかりと付ける年にしていきたい。
(2011.01.05)

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