2010年を振り返って~中国・円高・観光・・・(2010.12.28)

時代の転換期にあることを強く感じた1年

 昨年、最悪期を脱した日本経済はアジア新興国にけん引されながら回復し、今年はなんとかプラス成長を回復した。世界経済を見渡すと、今後も新興国の成長率は相対的に高くなっていくことが予想される。そのため従来の先進国のみが主導する成長から、新興国をも含めた多極的な成長へ変わっていく。
 2008年のリーマンショックを経たのちの、目の前に現れた成長の構図に、改めて時代の転換点に立っていることを感じた1年だった。転換期としての2010年の経済を3つほどの観点から振り返っておきたい。

中国経済がGDP世界2位へ

 4‐6月、7-9月のGDPで遂に中国が日本を上回った。1‐9月の上期全体では日本が辛うじて上回ったため、世界2位を維持したが、中国の2位浮上は時間の問題だろう。このことは日本にとって脅威のようにも感じられるが、実は香港を加えた日本の対中貿易をみると巨額の黒字が積みあがっている。それは今世紀に入ってからの中国の急成長をなぞるような成長曲線を描いている。中国の成長は、パラレルに日本の輸出を増やす構造となっているのである。
 今後10年間を見通しても、中国の経済規模は3倍程度になるとも予測されており、それにともない増加する対中国向けの輸出も3倍とも4倍とも言われている。従来アメリカから稼いでいた分に相当する黒字が中国からもたらされることになる。
 GDPの逆転という象徴的な出来事が、アメリカで食べていた日本から中国で食べていく日本という構造転換を印象づけた年だった。

成長する中国と定着する円高

 こうした貿易黒字も一因となって、円が15年ぶりの81円台という歴史的な円高水準を付け、6年ぶりの為替介入も行われた。
 主要因はギリシャ財政問題など金融不安に揺れる欧米の緊急避難的な円買いという側面が強かったが、貿易黒字という基本的な要件が円買いの一定の方向性となっている面も疑いのないところだろう。これを受けて、上場企業の想定レートはついに80円台となるなど、1ドル80円時代の到来もうかがわせる。
 振り返ると、1ドル1円で始まった円の価値は、第二次世界大戦での敗戦により360円になった。つまり明治維新を経て列強の仲間入りをした日本の通貨は、敗戦によって信じられないぐらいの価値におとしめられたことになる。円安になったと喜べる状況ではなかったはずだ。
 その後、日本経済の奇跡的な復活と国際的な思惑が交錯する中、日本は急激な円高を駆け抜けていくことになる。通貨価値の上昇とともに得るところも多かった一方で、輸出セクターでは血を流しながら国際競争力を獲得してきた60余年だったといえる。
 そして、1ドル80円台となった2010年代を迎えた訳だが、リーマンショックのあった2008年度にこそ赤字となった貿易・サービス収支は、世界経済の回復に合わせ早々に黒字を回復している。
世界経済の成長とともに着実な黒字を重ねる日本経済の構造を鑑みるにつけても、1ドル80円は日本経済が成熟していくひとつの段階とみるべき変化なのかもしれない。

観光産業を製造業に次ぐ第2の柱に

 新たな成熟する日本というステージを考えた場合、従来型製造業に次ぐ第二の柱を準備する必要がある。産業史の流れをみるなら、製造業は国の成熟化にともない成熟・衰退産業へ移っていくからだ。その第二の柱となるべきものが観光産業だろう。
 10月から12月に信州デスティネーションキャンペーンが実施された。観光客は、10月は対前年11.6%、11月同21.4%、累計延べ367.8万人と前年同期比16%と大幅に増加した。
ここしばらく、低迷する長野県観光というような負け犬的状況に慣れっこになっていた我々にとっては、久しぶりに明るいニュースとなった。信州DCからは、しっかりとした態勢で臨めば、観光客を増やすことは可能だということを学んだのではなかろうか。
 冒頭の成長する中国との関連で考えるのなら、日本の隣国が急成長を遂げる時代、その豊かになった人々の「世界を見たい」というニーズを満たす隣に位置する日本、そして長野県という立ち居地を固めるべき時期にきていることは間違いない。アジア・中国になくて日本にあるものには枚挙にいとまがないが、それらをおもてなしの心をもって提供することが観光になるのだと思う。
 しかし、それに加えしっかりと確認しておきたいことがひとつある。それは、「環境の美化」という点だ。ゴミは落ち放題、至るところ廃屋だらけでは、いかに素晴らしい観光資源があろうとも台無しだ。(実はこうした残念な観光地は少なくない。)観光を意識しないまでも、地域に住まう我々の責任として地域の「美化」は推し進めなくてはならない重要なテーマだ。
 実は、今回の信州DCでも実施にさきがけ、県下各地で「『さわやかにもてなそう』県民運動」としての環境美化活動は行われている。こうした活動が定着することで、長野県観光の磐石な基礎が築き上げられるのだろう。観光は優れて地域づくりであることを強く感ずる。
 成熟した我々の「地域そのもの」を世界に示すときが来ている。ピカピカに磨かれた地域でワクワク暮らす人々が集う地域こそが最高の観光地なのである。2011年はそのスタートの年と位置づけられるのではないか。
 ここ数年転換期としての変化を感ずることが多くなると思うが、曲がり角の先の大きな光を見逃さずに、それに対する先行投資を続けていきたい。
(2010.12.28)

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