K―POPはなぜ日本に押し寄せたのか(2010.12.22)

 今年は韓国のアイドルグループが日本に大挙した。それも日本語を完璧にマスターした上での本格攻勢だ。なぜだろう。それは、日本が世界有数の巨大市場だからだ。今更言うまでもないが、GDP(国内総生産)は中国の逆転が確実とはいえ、日本は現時点では年間で世界第2位の規模であり、人口でさえも小さな島国のイメージとは対照的に世界で10位だ。長野県の経済規模だけでもベトナムと肩を並べる。

 ところが、「時流はグローバル化だ」といって人口減と高齢化が進む日本に見切りをつけ、こぞってアジア市場を目指している。グローバル化の波に乗り遅れたら大変だ、生き残れない。それは一面真実だろうが、当然それだけではない。

 例えば、ある製造業者は、多量の不良品を出しながら製造拠点をアジアに移転するという。商業にしても、若者向けの商品が売れなくなったから海外に販路を求めるのだという。一体、収益が出るための改善努力はしたのだろうか。そして、シニア層が急増する国内市場を分析して、新たな市場について十分に議論を重ねたのだろうか。

 じっくり考えてみたい。30人程度の従業員を抱える中小企業は、何百億円もの売り上げがなくともやっていける。業種にもよるが、数億円から十数億円の売り上げがあればいい。その数億円の売り上げも確保できないほどに日本市場が縮んだわけではない。依然、県内中小企業にとって、持ち前の技術や技能などの強みを磨けば、獲得できる市場は国内にも十分にあるはずだ。

 こうした市場への挑戦なくして、単純に海外展開をしたところで競争に勝てるものではない。そうこうしている間に、国内にある地域中小企業の牙城でさえ、K―POPのごとく海外企業によって崩されてしまいかねない。

 年の瀬に臨み、世界を展望するその目で、足元に広がる巨大な生活の場をあらためて見つめ直しておきたい。
(2010.12.22)


(初出)信濃毎日新聞2010年12月22日朝刊「提言直言」『K―POPはなぜ日本に押し寄せたのか』

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