チリ鉱山事故、奇跡の生存から学ぶ希望とリーダーの役割(2010.09.06)
8月チリで起こった鉱山落盤事故で、奇跡の生存にはリーダーの強い指導力が
8月22日、チリ北部のサンホセ鉱山での落盤事故で生存が絶望視されていた33人の作業員全員が、事故から17日、地下700メートルの避難所で生きている事が明らかになり、久しぶりの明るいニュースに世界が沸いた。
報道によると、33人の作業員全員が生存できた理由は、落盤時に有毒ガスが発生しなかったことと、通気口がつぶれなかったという幸運が重なったことだという。しかし、そうした幸運は必要条件ではあっても十分条件ではない。その後、17日間を生き延びられたのは、パニックに陥らないよう規律を守らせ、生きる希望を与えたリーダーの強い指導力があった。
食糧の管理と各人の目標・役割で生きていくための希望づくり
リーダーとしての采配を振るったのは現場監督のルイス・ウルスア氏54歳。彼は次の3つのことを行ったのだという。
1つに食糧の配分。避難所に備蓄されていた食料は3日間のみ。それを長期戦に備え、33人で等分にし、1日おきに缶詰のツナを2サジ、クラッカーを半分、牛乳を半カップ、缶詰の桃1切れのみを食べるよう分配し、17日間をしのいだ。
2つに限られた空間の有効活用。40㎡程の避難所と人が移動出来る坑道約2キロの空間を、生き延びるために、「寝る場所」、「食べる場所」、「その他必要な場所」と3つに分けた。
3つに、新たな落盤に備え交代で寝ずの番をしたり、飲料水を確保するための穴を掘るなど、33人に生きるための役割を与えることでパニックと絶望に陥ることを防いだ。
絶望のアウシュビッツでも希望が人々を守った
こうした極限状態での生存の話を聞くたびに思い出されるのが、第2次世界大戦下のアウシュビッツ強制収容所を生き抜いた人々の奇跡の記録である。これらの記録によると希望を失い、絶望に陥った人から亡くなっていったことが伝えられている。アウシュビッツでの体験記をまとめた精神科医V・E・フランクルの『夜と霧』にも、そのことが詳しい。
1944年の年末から45年の年始にかけ、それまでにないほど多くの死亡者が出た。その原因は、その時期に特別な強制労働が強いられたわけでも、食料が与えられなかったわけでも、病気が流行した訳でもなく、皆が抱いていた「クリスマスにはこの地獄からも救われるのだろう」という淡い希望を失ったことだった。希望を失い絶望に陥った多くの人が亡くなった。絶望はいとも簡単に人を死に追いやる。
フランクルは、強制収容所の人間を精神的に奮い立たせるために、希望をもたせることが必要で、自分を待っている仕事や愛する人間に対する責任を自覚した人間は生きることを放棄しない、と書いている。
我々の日常生活にも必要な希望、そしてリーダーシップ
日常我々は、これほど究極の状況に陥ることは先ずないとしても、ガンなど深刻な病気になったり、勤めている会社が倒産しそうになったり、実際に倒産する可能性は誰にでも起こりうる。そうした時に、いかに精神的に踏ん張れるかは非常に重要だ。
『夜と霧』の中では、この点をニーチェの言葉を引き合いに「なぜ生きるかを知っている者は、どのように生きること にも耐える」と書いている。つまり、生きる目的・意味を明確にし、事ある毎に意識することで、人は厳しい環境にも耐えることができるというのだ。
そして、これが企業であれば厳しい時こそ、チリの現場監督のルイスさんのように、「このようにやれば必ず助かる」と希望という方向性とそれに至る方法論を明確に部下に示してやる必要がある。今は苦しいが、それは必ず乗り越えられるもので、乗り越えた先には必ず光があるというトップの力強いメッセージだ。
チリサンホセ鉱山の救出活動はこれからが本番だが、33人全員が無事救出されんことを心からお祈りしたい。
(参考文献)『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル 訳者 池田香代子(みすず書房)
(2010.09.06)
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