変わりゆく世界経済変革―遅れれば明日はない(2010.05.02)

 先に閉幕した主要20カ国財務相会議(G20)は、世界経済の回復が予想以上に進んでいるとの共同宣言を出した。日本経済も大企業を中心に持ち直しの動きを見せており、本県経済でも長野経済研究所の県内業況アンケート3月調査では4期連続の改善となっている。経済はリーマン・ショック以降の動乱をひとまずくぐり抜け、次のステージに入ったようだ。
 こうした動きからは、経済が回復期に移行していく、ごく普通の景気循環を思わせるが、内容をみると従来とはかなり異なった様相に気が付く。それは、ひと言で言うなら、世界経済の牽引(けんいん)役がアメリカから新興国に移り始めたということだ。リーマン・ショック明けの世界経済は大きく変わるとの予想が現実になり始めた。
 先の当研究所の調査結果から顕著な変化をいくつか紹介したい。まず、売り上げの回復に対して、利益面での回復が極めて脆弱(ぜいじゃく)となっている。中国などへの売り上げは伸びているが、低中級品が中心で利益を上げづらくなっている。そして、回復している生産も、一昨年のピーク時に比べれば7~8割の域を超えてはいない。要するに、アメリカ市場頼みの21世紀初頭とは打って変わって、主要市場は新興国の低価格帯に移り、価格はピーク時の8割近辺が天井となっている。
 

 以前から再三指摘されてきた点ではあるが、われわれが新しく迎えたステージでは、既存製品市場での本格的な回復はないことがあらためて確認された。「経済は変わった」という事実を厳粛に受け止め、新たな戦略に着手しなくてはならない。新興国の低中級品市場でも利益が出せるような事業構造への変革や、海外企業にはまねのできない新たな高付加価値分野を一刻も早く開拓するべきだ。
 明治の海軍参謀秋山真之は「自分が1日さぼれば日本が1日遅れる」との鬼気迫る言葉を残しているが、今まさに、企業の変革が遅れれば長野県経済の明日はない、というぐらいの危機認識が必要だ。変化の方向を見据え、すべてが変わるべき時なのだ。

(初出)信濃毎日新聞2010年5月2日朝刊「提言直言」『変わりゆく世界経済変革―遅れれば明日はない』 

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