『危機を行き抜く企業力』(長野経済研究所著)(2009.08.31)

始まった大手企業の業績回復に向けた動き 

 世界同時不況の中で製造業は大きく売上げを減らし、大幅な赤字に転落したが、4月以降ようやく世界市場も最悪期を脱した模様だ。そうした中、乗用車大手7社と電機大手9社の2009年度約5兆円に上るコスト削減の動きが明らかにされている。乗用車や電機大手は中国など新興国企業に対し、高止まりしているコストを引き下げることで競争力回復と業績の回復を急ぐ(日本経済新聞2009年8月15日朝刊参考)。
こうした報道を目にすると「ようやく日本のグローバル企業も復活するのか」と一般論的には喜べるのだろうが、長野県企業という地方経済から見た場合には、決して手放しで喜べる動きではない。

地方企業にとっては切られる痛みの方が強い 

 大手メーカーがコストを引き下げるということは、具体的には、事業構造を見直し、人件費や原材料、部品等を削減することだ。即ち、部品製造を主とする長野県製造業には甚大な影響を与える。
 具体的には、大手メーカーは事業を見直す中でコスト削減のため、「部品の単価切り下げ要請」や「新しいコスト削減提案をしてくれる取引先開拓」を行ったり「部品仕入先を絞り込んだり」する。そのため、県内でも仕事が減少する多くの企業と、仕事が増加する一部の企業とが差がより鮮明になっていくことが予想されるということだ。

長野県企業はどうしたらいいのか

 こうした激変する企業環境への対処はどのようにしたら良いのだろうか。先頃、当研究所で出版した『危機を行き抜く企業力』の中での一部分を紹介しよう。
 まず、経営者は突き当たっている課題を明確化することが必要なのだが、一体何が課題なのかが良く整理できていない企業が案外多い。そのため、今回の場合で考えると「我社にとりコスト削減要請とは何か」という課題を明確にし、対処していく事が必要となる。たとえば、それは不良品や在庫が多いといった課題の場合には、不良品低減や原価低減などが必要ということになり、徹底した「ムダ取り」が求められる。さらにはもっと深い部分で、コスト削減のためには自社の技術改善が必要だということになれば、技術開発力に関わる人や開発プロセスなどに課題を見出すことができる。課題が技術とわかれば産学連携や産産連携など他を使うこと等も考えられるという訳だ。

このような不況期こそ、根本的な経営改善が必要に

 しかし、根本的な解決としては、単なる下請企業から技術提案ができるパートナー企業に脱皮をしていく必要があり、この点を本書では強調している。現在の不況は待っていれば元の仕事が戻ってくるほど甘いものではないという厳しい認識が必要なのである。なんとなれば大手メーカーから完成された図面を渡され加工だけをする賃加工仕事の状態では提案できる範囲は小さく、たとえ提案したとしても大手では設計変更の手間隙を考えると受け入れることは難しい。結果、仕事量は減少の一途をたどることになる。
 要するに、製品の企画段階から基本設計を変えるような提案ができる関係になることが望ましい。こうした厳しい時期だからこそ、大手企業は新しいパートナーを探しており、そこに自社が参入できるというビッグチャンスも訪れているのだ。
 『危機を行き抜く企業力』でも15社の元気な企業を紹介しているが、お客さんの要望は断ったことがなく、製品づくりの根幹にまで連携し、他からの発注も引きも切らない企業事例もある。
 ポイントは、お客さんとの徹底したコミュニケーションである。お客さんのところに足を運び、お客さんを徹底的に知り尽くし、困っていることを解決する製品・サービスを提案することだ。
 是非、本書を一読していただき自社の課題を見出し、新たな方向性に挑戦するヒントを得ていただきたい。

(2009.08.31)

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