今回の不況下で猛省すべき本当のこと(2009.05.18)

吹き出したグローバル化の陰の部分 

 メキシコの片田舎で起きた豚インフルエンザがあっという間に世界中を震撼させるという構図は、情報のみならず人やモノが地球上を隈なく移動するグローバル化された世界というものを目の前にあぶり出させた。この前提にあるのが「経済」のグローバル化だ。90年代後半から加速的に進んだグローバル化は世界経済を地球規模で急成長させたが、その反動が呼び込んでしまった世界同時不況の上に我々はいる。
 つまり、新たな時代の幕開けとして喝采を浴びたグローバル化だが、ここに来てその陰の部分が一気に吹き出したということだろう。実際、信州の片田舎の製造業も世界不況のあおりで仕事を激減させており、地域も間違いなくグローバル化路線をまっしぐらに進んでいるという事実を痛感させられている。

グローバル化があぶり出した本当の陰「なにもない日本」

 実は、グローバル化という現象があぶり出した本当の陰はインフルエンザや世界同時不況ではない。今までに経験をしたことのないような「資源」、「エネルギー」、「食料」の同時高騰と、それを持たないわが国の脆弱な経済の構造だ。
 2001年頃から僅か5-6年の間にこれらが4-5倍に急騰した経緯はまだ記憶に新しい。そこで我々ははたと、「生活の基盤であるこれらがほとんど海外頼みであり、日本社会が実は極めて危うい構造の上にある」という事実に今更のように気づかされた。今、猛省すべきは、行過ぎたグローバル化や市場主義に走りすぎた経済の姿というよりは、「生活基盤を極端に欠いた日本の姿」というものであろう。
 因みに日本のこれらの自給率は、エネルギーは原子力を除くとわずか4%、資源の代表的な鉄鋼石はゼロ、食料はカロリーベースで39%だ。戦後、通商国家として資源を輸入しては、ひたすら自動車と家電製品に加工し、それらを売った儲けで、エネルギー、食料を海外から買ってきては糊口をしのいだ。ところが、世界人口は現在の67億人が40年後には92億人になることが予想されており、10億人規模の人口を擁する中国、インドなどの新興国が更なる工業化を推し進めていくためには、単なる人口増加以上の膨大な量の資源、エネルギー、食料を必要とする。そのため、事と次第によっては国同士の資源争奪戦のような場面も想定しておくべき時代になったと言える。
 今はたまたま、世界的な不況にあるため、資源もエネルギーも需要が落ち着いている。しかし、不況が収まれば世界的な資源需要は再び膨張し、不況克服のため実施されている世界的な金融緩和策が一転牙を剥き、巨大なお金の流れが資源、エネルギー、食料といった投資対象に向かい始めても不思議はない。

猛省して、「まともな経済の姿」を考えてみよう

 猛省して、「まともな経済の姿」を考えるなら、少なくとも、食料やエネルギーの半分ぐらいは自給すべきだ。他の先進国の食料自給率は、米国128%、フランス122%、イギリス70%。エネルギー自給率では、米国71%、フランス50%、イギリス106%と日本が群を抜いて低いことは明白だ。
 要するに、グローバル経済は、日本がどう世界から稼ぐかということ以前に、どう食っていくのかという根本的な問題を目の前に出現させたのだと考えられる。
 資源自給に対する現状を整理するなら、新エネルギーへの取り組みは、自給率50%はほど遠いものの、太陽光を始め産業化に目処が立ってきた部分もある。鉱物資源については、政府では海洋基本法を成立させ、200海里内での排他的経済水域での海洋資源開発で自給化に向けた構想を打ち出している。

食糧安全保障というものがない国

 エネルギー、鉱物資源の問題に目処が立った訳では決してないが、とりわけ問題なのは食糧だ。世界では、10数億人が飢餓線上で喘いでいる一方で、日本では「作物を作れるのに作らない」耕作放棄地が増加の一途をたどり、東京都の1.8倍の面積になっている。先に国同士の資源争奪戦と書いたが、まさに飢饉で世界的な食糧不足となった際に、自国の食糧を他国に回すようなお人良しの国はない。そうした意味での食糧安全保障というものが日本にはないことが分かる。食糧安全保障とは、万が一の際に食糧を作れるだけの農地資源が用意されているかということだからだ。一刻も早く農業を産業として再生させ、耕作放棄地を農地に替えていくことが求められる。
 長野県について触れておけば、長野県の耕作放棄地面積は17,094haと全国の都道府県で4位(平成17年農林業センサス)、耕作放棄率(耕作放棄地面積が経営耕作面積に占める割合)は9位という不名誉な位置にある。長野県の自然環境が農業に適していない筈はない。端的には農業では食べていけないため、農業を継ぐ若者がいないのだ。
需要から考えるのなら、農業は間違いなく成長産業である。

 減反政策の見直しをはじめ農政の見直しや、農業生産法人の活用など産業として成り立つ農業の復活に真正面から取り組んでいくべき時にきている。

(2009.05.18) 

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