地方への展開が進む情報サービス産業

 わが国企業のグローバル化が加速したことなどにより、近年、工場立地件数が頭打ち傾向にあるなど製造業に一頃の勢いがみられない中で、ソフト開発業などの情報サービス産業はインターネット等の普及によりIT(情報技術)の活用分野が広がっていることなどから成長基調にあります。
 そこで、地域へのサテライトオフィスなどの拠点新設により業績を拡大する企業や受入地域の事例をみながら、情報サービス産業の誘致を地域の産業振興や経済活性化につながる条件を考えてみます。

情報サービス産業の規模は全国的に近年も拡大傾向、長野県内も同様である

 わが国の情報サービス産業は近年も売上高や事業所数などの規模が業況拡大傾向にあり、長野県内でも同様ですが、都道府県別の売上高は、7割以上を首都圏1都3県で占めるなど一極集中の状況が続いています。
 しかし、近年整備された超高速通信ネットワークを活用し、首都圏以外でも情報サービス産業にターゲットを絞り、誘致を進める自治体や地域も出てきました。インターネットを活用したクラウドサービスやスマートフォンなどモバイルの普及により、大都市でなくても事業が可能となったことが要因としてあげられます。こうした動きが、地方に新たな雇用の創出や地域経済活性化などをもたらしています。
 そこで大都市圏以外の地方にサテライトオフィスを開設して事業展開を図っている事例をみていきましょう。

情報サービス産業の誘致に成功した徳島県神山町の取り組み

 徳島県では、地上デジタル放送開始に伴いケーブルテレビ網を整備し、光ファイバの高速通信網を県内全域に整備しました。このような中、過疎と高齢化が進む神山町や美波町などの地方部において、全国屈指の高速通信環境を活かし、IT企業の拠点開設が進んでいます。
 このうち神山町では、名刺管理クラウドサービスを提供するSansan(株)(本社:東京都千代田区)が、企業理念である「新しい働き方」を模索するさまざまな取組の一環として、職住近接の働きやすさと、より静かで集中できる環境を提供して、社員の創造性を高めることを目的に、2010年10月より、神山町に築70年の古民家を借り受け、サテライトオフィス「神山ラボ」を開設しました。
 神山町に開設した理由は、(1)古民家を活用した地域活性化などに取り組む同町のNPO法人グリーンバレー(理事長 大南信也氏)による、借受物件の選定や所有者との交渉などのバックアップがあったこと、(2)豊かな自然環境に触れることで滞在する社員がリフレッシュしながら、業務の生産性を上げることができること、(3)高速インターネット環境により本社と同等に働けることでした。

長野県内での情報サービス産業の拠点展開の条件は?

 Sansan(株)のように、情報サービス産業の地方への展開は、首都圏等大都市部に拠点を持つ企業の地方への進出意向が重要な要素となるといえますが、地方側も拠点開設適地として選択されるための基本的な条件を備えていることが求められます。適地の条件はデータセンター、コールセンター、ソフトウェア開発業などで異なりますが、共通条件として(1)大容量データを高速で通信できる環境、(2)地元自治体の支援体制、(3)進出企業をサポートするコーディネータや支援団体の存在の3点を挙げます。このうち、今後長野県内で特に重要になるのは、神山町のグリーンバレーのような進出企業を支援する機能と考えます。
 長野県は、高速通信が可能な環境を備えているほか、新幹線、高速道路等の交通アクセスが良好で首都圏への時間距離も比較的短いなど、情報サービス産業の拠点を開設するための基本的条件は備えているため、徳島県神山町と同様の取り組みができる余地があり、今後の県内市町村の取組みに期待したいところです。

(2014.1.9)

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